:: びっくりコンテンツ

V.S.G.P

V.S.G.PLive Album with Studio elements / 2010.10.25 / KZCD-1014

アルバムタイトル「V.S.G.P」は、「Vocal. Strings. Guitar. Piano(Percussion)」の頭文字から。DISC1は2009年の弦カルテットとのセッションライブ音源をベーシックに、新たに音を重ねて録音しなおした1枚。ライブ音源をベースにしてはいるものの、純粋に「ライブアルバム」と呼ぶことはできない。さらに、スタジオ録音の新曲が収録されているという点においては「オリジナルアルバム」とも言えるし、L⇔R時代の楽曲をリメイクした「セルフカバーアルバム」としての側面もある。それらを「企画アルバム」という一言で包括してしまうのも乱暴な気がする。つまり、黒沢健一本人が言うように非常に「説明の難しい」作品なのである。プロモーションで使用された「ソロ4.5枚目!?」というコピーも、この作品の立ち位置を絶妙に表現している。

パーカッション、さらにはコーラス&ボーカルまでダビングしたとなれば、逆になぜ「完全新録」にしなかったのかいう疑問も湧いてくる。例えばスタジオにストリングスを揃えて録音するのは様々な制約から難しかったというのが本当の理由かもしれない。しかし、ライブの躍動感や呼吸のようなものを活かして新しい音楽を作りたいという理由だったと前向きに考えるべきだ。ギタリスト菊池真義と共にFMたちかわ「Across The Morning」にゲスト出演した際、ライブ音源に合わせて演奏することの難しさが語られていた。果たしてその成果はバック・トラックの音像的な面白さとして表れているように思う。

Sheik Yerboutiライブ音源にオーバーダブを施して演奏ミスを修正するような作品は数多く存在するが、今回の試みはアレンジやミックスを加え全く新しい「スタジオ音源」として再構築することであった。その方法論は、フランク・ザッパの傑作「Sheik Yerbouti」を想起させる部分もあるが、そのような説明や注釈を抜きにしても、「V.S.G.P」は異才のアイデアと情熱が暴走した名盤である。「録音されたライブ音源を繰り返し聴くうち、あるサウンドが頭の中で聴こえてきたのでそれを形にしてみたくなった」という彼の発言は、ジャックをつなぐことをあえて放棄した「Focus」とは異なり、目指すべき音が確然と存在していたことを証明している。一方で「やってみないとどう転ぶか分からない!」という当初の発言からも、最初から台本を読み込んでいたわけではなく、レコーディング初期は手探り、暗中模索、感性のアドリブだったことが窺える。以前、インタビュー雑誌「cast」で黒沢健一本人が語ったところによると、「Focus」冒頭を飾った美しき名曲「Grow」は、デモ段階ではスタッフも閉口するほど実験的な音作りだったという。おそらくその趣味性は今回の「V.S.G.P」においても発揮されており、旺盛な実験精神がアルバムのあちらこちらで小爆発を繰り返している。リスナーを幻惑させる「V.S.G.P」の斬新かつ異様な音世界は、「どうすれば自分の音楽をアップデートできるか」という命題に対する黒沢健一の強い関心とこだわりにより生み出されたといえるだろう。

アルバムアートワークは、前作「Focus」に続き下山ワタルが担当。ドイツの名門クラシックレーベル、グラムフォン社のイエローレーベルを模したジャケット写真にスクリプト文字を配し、クラシック売場にCDが並んでいても違和感がない。だが、このジャケットは、モリッシーが2006年に発表したアルバム「Ringleader of the Tormentors」のパロディである。後述の「V.S.G.P NAKED」では弓の角度までほぼ一致。ちなみに、黒沢健一もモリッシーもバイオリンは弾けない。

Ringleader of the Tormentors

■DISC1 -STUDIO-
2009年のライブ音源をベーシックに、スタジオでダビングを繰り返すことで制作された。ギター、パーカッション、コーラス、ボーカルも新たに録音。CD未収録のM3、そしてスタジオワークの中で新たに生まれた未発表新曲のM7にも注目。詩情あふれるギターがアルバム全編に渡り醸し出す、豊かな色彩感と清冽な躍動が印象的である。

01. What is this song?

1stソロアルバム「first」レコーディング時の未発表曲。ベーシックトラックは2009年12月5日・東京グローブ座公演。ライブ映像をベースとしたミュージックビデオも制作され、公式サイト他、一部TV番組にてオンエアされた。光降り注ぐ、まばゆいメロディーライン。雄大なストリングスアレンジに負けない、しなやかで流麗なメロディラインが印象的。当時なかなか曲タイトルが決まらないことに業を煮やしたレコーディングエンジニアのエイドリアン氏が、朝昼晩「What is this song?」と黒沢健一に問い続けたのにもかかわらず、結局タイトルは決まらず、アルバムにも収録されることはなかった。そして今回、弦カルテットとの共演のために曲を探していたところ、怒りに満ちた文字で「What is this song?」と表書きされたこの曲のテープを見つけたとのこと。そのような経緯から、この度10年越しに曲タイトルが与えられ、リリースされるに至った。一度はお蔵入りとなった名曲を耳にすることができたことに感謝の念を禁じ得ない。なお、本盤のアレンジに伴い、残念ながら遠山氏のピアノはオミットされている。素晴らしいピアノプレイ(イントロの美しいアルペジオ、歌伴における歯切れの良いフレージング)を堪能したい場合は、DISC2の同曲ライブ音源を聴いてほしい。

02. PACKAGE

L⇔R初期の名曲。原曲をよりいっそうパーカッシブに再構築。これだけ濃厚な音作りをしながら、ポップスの親しみやすさは完璧に保たれている。一連の「V.S.G.P」プロジェクトの核となる重要な一曲となった。ベーシックトラックは2009年10月4日・世田谷パブリックシアター公演。

03. 方舟

2008年の「TOUR without electricity」からライブで披露されていた新曲。ライブDVD「LIVE Focus 2009」に初収録されたが、今回ようやく完全新録のスタジオバージョンがCDに収められた。隅々まで行き渡った繊細なアレンジだが、最小構成の弾き語りの素朴さは手付かずのまま残されている。

04. KEEP THE CIRCLE TURNING

ここからアルバムは夢の世界に漕ぎ出していく。L⇔R「LACK OF REASON」に収録された名曲であるが、ギタリスト菊池真義氏によって「発掘」され、近年ライブで披露されるようになった。ストリングスの優美な音色と、優しいボーカルによって現出された原曲以上にドリーミーな世界は、聴き手をポップスの桃源郷へと誘う。ベーシックトラックは2009年12月5日・東京グローブ座公演。

05. Walking on a rainbow

これまでライブのみで披露されていた新曲。ベーシックトラックは2009年12月5日・東京グローブ座公演で、黒沢健一のギターと遠山氏の雄弁なピアノが重なり合う没入度の高い名演であった。それにしてもこのスタジオバージョンの素晴らしさは、期待をはるかに超えるものである。ブライアン・ウィルソンへの憧憬が透けてみえる美しいコーラスも一部聴かれるが、その多くは不穏な響きに満ちている。エコーの渦の中で乱舞するギター。ウインド・チャイム。街のノイズ。意識の錯綜。調べを狂わす間奏パートでは耽美的な美しささえ漂う。ひとつの楽曲の中で、同時にいくつもの楽想が描かれ、過去と現在が複雑に交差する重層的な時間の帯にリスナーを巻き込んでいく。アルバム「V.S.G.P」の独創的なサウンドが、スタジオでの狂気とも思える作業の中から生まれた実験の成果であるならば、「Walking on a rainbow」はその極北といえる。個人的には本盤のベスト・トラックに推す。ライブ初出時のタイトルは「Landing over the rainbow」。

06. Love is real?

L⇔R黎明期の傑作。デビューのきっかけにもなった孤高の名曲が、約20年の時を経て再録音された。あのきらめく高音と透明感がもたらした興奮はここにはないが、温かく柔らかな歌声で描き出される心象風景、揺れ動く感情表現の連なりによって、楽曲の細かな表情付や彫の深さが明らかにされている。演奏面ではまず左チャンネルで鳴らされるギターの粒立ちの良さと、爪弾かれるフレーズの不思議なタイム感に耳を奪われる。間奏ではスピリチュアルな響きを湛えた美しさと甘美な匂いが強烈にたちのぼる。遠くから聴こえる子どもたちの遊び声は、前曲「Walking on a rainbow」と寄り添いながら、L⇔R「Passin' Through」の世界観とも微かに共鳴しているのかもしれない。ベーシックトラックは2009年10月4日・世田谷パブリックシアター公演。

07. Northern town

新曲。くつろいだ音空間の愛らしい小品である。華麗かつ重厚な彩りを添える鉄壁のコーラスワークは黒沢健一の真骨頂。ドゥ・ワップ、フィンガースナップ、すべての音にコントロールが行き届いており、一音たりとも無駄がない。この比類なきポップスセンスは、やはり天賦の才と言わざるを得ない。

■DISC2 -LIVE-
01. EQUINOX
02. 7voice
03. Remember
04. What is this song?
05. September Rain
06. Package
07. Keep the circle turning
08. Wondering
09. Love is real?
10. HELLO, IT'S ME
11. Grow
12. Northtown Christmas

世田谷パブリックシアター(M1-5, M8)
東京グローブ座(M6-7, M9-12)

2009年に開催された「TOUR without electricity 2009」より、弦カルテットとのセッション曲を収録。ストリングスの細やかなフレーズと艶のある音色が堪能できる好盤である。二会場での収録だが、ビーチ・ボーイズのカバー「God Only Knows」を除き、当該ツアーにおいて弦カルと共演した全ての楽曲を網羅している。DISC1に採用された曲以外でも、優雅なストリングスとアグレッシブで骨太な熱唱が交差する「7voice」や、チェロの通奏低音が深く静かに響く「September Rain」等、聴き応えのある楽曲が並ぶ。「What is this song?」は、ぜひDISC1と聴き比べてほしい。各楽器の音の輪郭がくっきり浮き出し、シンプルな躍動感にあふれている本盤DISC2のライブバージョンの魅力も捨てがたい。なお、本ライブはDVD化されていないが、「V.S.G.P」特別映像第1弾にてその一部を視聴することができる。


REVIEW::黒沢健一 | V.S.G.P

V.S.G.P plus

V.S.G.P plusPAPER SLEEVE COLLECTION vol.2
Bonus Disc (not for sale) / 2010.12.15 / rpm-0019


オフィシャルショップ kuroken68 shops の「V.S.G.P」購入特典。本編未収録ライブ4曲入りの非売品CD。紙ジャケ仕様。セピア色の盤面が美しい。

01. Maybe

4thアルバム「Focus」収録の名曲。2009年10月4日・世田谷パブリックシアター公演より。弦カルとの共演ではなく、黒沢健一のボーカル&ギターと、遠山裕のピアノのみで演奏されている。

2. What is this song?

2009年12月5日・東京グローブ座公演より。「V.S.G.P」のDISC1に収録されたバージョンは、この音源にダビングを重ねたもの。

3. Package

世田谷パブリックシアター公演より。「V.S.G.P」のDISC1に収録されたバージョンは、この音源にダビングを重ねたもの。「V.S.G.P」(DISC1&DISC2)、本CD「V.S.G.P plus」、後述する「V.S.G.P NAKED」の、いわゆる「V.S.G.P」三部作すべてに収録された楽曲は「Package」のみである。

4. Knockin on your door

東京グローブ座公演より。あまりにも感動的な黒沢健一のひとり弾き語りバージョン。手拍子も許されないほどの異様な緊張感の中、荒々しいギターの音、息づかいのひとつひとつが胸を締め付ける。エンディングではほとんどアカペラで歌い上げ、渾身の力でギターをかき鳴らす。その瞬間、張り詰めた空気は鮮やかに開放され、オーディエンスの拍手は永遠に鳴り止まないかと思われるほどであった。


REVIEW::黒沢健一 | V.S.G.P

V.S.G.P NAKED

V.S.G.P NAKEDPAPER SLEEVE COLLECTION vol.3
Live Merchandise / 2010.12.18 / rpm-0020


「V.S.G.P」「V.S.G.P plus」に続く、紙ジャケ三部作の完結編。2010年12月18日・19日の東京グローブ座2days公演より販売開始。後日、オフィシャルショップ kuroken68 shops でも取り扱いが開始された。内容は以下のとおり。

■CD
「V.S.G.P」DISC1からライブテイクを抜き、【ダビングしたものだけでまとめた】というマニアックかつレアな音源4曲。ダビング大王の異名をとる黒沢健一の天衣無縫のスタジオワークが堪能できる。「V.S.G.P」制作の過程から生まれた副産物でありながら、このCD単体でも十分に完成度の高い楽曲として成立していることに驚かされる。

01. Package
02. Keep the circle turning
03. Love is real?
04. Northern town

■黒沢健一&エンジニア永井はじめ V.S.G.P対談
■「V.S.G.P」「V.S.G.P plus」「V.S.G.P NAKED」ジャケットステッカー


REVIEW::黒沢健一 | V.S.G.P

Recording List of V.S.G.P

「V.S.G.P」三部作に収録された楽曲と、それぞれのライブ録音会場をまとめた。「What is this song?」「Package」「Keep the circle turning」の3曲については、DISC1のスタジオバージョンと同日同所のライブテイクが存在するということになり、たとえばプレイヤーを2台用意してそれぞれの音源を同時再生するといった楽しみ方も可能である。


■S=世田谷パブリックシアター(2009.10.4
■T=東京グローブ座(2009.12.5
■N=新録
■D=ダビング音源(DISC1からライブ音源を除いたもの)


REVIEW::黒沢健一 | V.S.G.P

「V.S.G.P」紙ジャケット三部作と「PAPER SLEEVE COLLECTION」について



「V.S.G.P」特別映像第2弾によると、「V.S.G.P」「V.S.G.P plus」「V.S.G.P NAKED」の3作品はまとめて【V.S.G.P紙ジャケット三部作】と定義されている。「plus」「NAKED」は、それぞれ【PAPER SLEEVE COLLECTION vol.2】【PAPER SLEEVE COLLECTION vol.3】と銘打たれているが、「V.S.G.P」は【PAPER SLEEVE COLLECTION vol.1】ではないので注意が必要。【PAPER SLEEVE COLLECTION vol.1】は、2007年より販売されているコンサートグッズのひとつで、一連の「V.S.G.P」プロジェクトとは無関係である。

:: PAPER SLEEVE COLLECTION vol.1
:: PAPER SLEEVE COLLECTION vol.2 | V.S.G.P plus
:: PAPER SLEEVE COLLECTION vol.3 | V.S.G.P NAKED


REVIEW::黒沢健一 | V.S.G.P