1st Live Album / 2008.6.4 / KZCD-1011
01. DAY BY DAY
02. Scene39
03. Feel it
04. SOCIETY'S LOVE
05. Rock'n Roll
06. 遠くまで
07. This Song
08. Love Hurts
09. Hello It's Me
10. Bye Bye Popsicle
11. Lazy Girl
12. PALE ALE
13. Younger Than Yesterday
14. リトル・ソング
15. God Only Knows
16. ブルーを撃ち抜いて
シングル「PALE ALE」のカップリングに、「Rock'n Roll」「Round Wound」のライブ音源が収録されたことはあったが、アルバム単位としてはソロ初のライブ作品である。2007年12月29日に渋谷DUO MUSIC EXCHANGEで行なわれた
「ソロライブ2007『年末歌い納め』~*配信はじめました。~」から厳選された16曲を収録。L⇔R時代に発表された4枚組CD「LIVE RECORDINGS」は、様々な時代、様々な会場の名演を集積した"ライブ・コンピレーション"であった。つまり、L⇔Rの歴史を振り返りながらそれまでの活動を総括するというヒストリカルな要素が大きく、今回リリースされた「LIVE without electricity」とは大きくコンセプトが異なる。「LIVE without electricity」はあくまで"あの日あの場所あの時間"をそのまま封じ込めた一回性の「ドキュメンタリー」であり、それは単に作品世界に統一感をもたらすといった以上の意味を持つ。
One Time, One Place.
同日収録ゆえ、ただそこに連続するものがパッケージされているのみで、それ以外の属性は一切ない。もちろんこの作品に刻み込まれているのは黒沢健一の一部に過ぎないのだが、それでいて全部かもしれない。もし時間がそこで止まってしまったとしたら、ここから聴こえてくる音が黒沢健一のすべてなのである。そして、必ずしも名演が名盤になるとは限らない。ライブ盤は恐ろしい。果たして「LIVE without electricity」は、オーティス・レディング「Live In Europe」のような高揚感と、ローリング・ストーンズ「Get Yer Ya-Ya's Out!」のような緊張感を併せ持つ、稀代の名盤となった。
「アコースティック?黒沢健一も随分おとなしくなっちゃったね」と嘲笑混じりに語る人がいるかもしれない。とりあえず「SOCIETY'S LOVE」と「PALE ALE」を聴いてみてほしい。その鬼気迫るドライブ感と咆哮を聴けば、この日のライブがいわゆる「弾き語り」「アンプラグド」とは全く別種のアプローチであり、レイドバックなんて都合のいい言葉で語られるような枯淡の境地とは相容れぬ世界であることは明白だ。アコースティックを標榜していながら、生々しいピアノ&ギターと力強い歌声が渾然一体となって生み出されるスリリングさは充分に先鋭的であって、リスナーの既成概念に激しく挑戦する瞬間を秘めている。一方で、「This Song」ではジョージ・ハリスンに似たコード進行が顕わになり、「Lazy Girl」イントロのギターには、あらためてトミー・ロウ的要素が顔を覗かせるなど、楽曲の骨格がわかりやすい形で伝わるのは、ピアノとギターというシンプルな楽器編成ゆえの発見であろう。
「Scene39」の爽快な躍動感、「Love Hurts」の艶かしさ。どこまでも鮮烈な「Younger Than Yesterday」、エモーショナルで感動的な絶唱「ブルーを撃ち抜いて」。聴きどころは多い。なかでも僕が「SOCIETY'S LOVE」「Bye Bye Popsicle」「Lazy Girl」等、オーディエンス参加型の楽曲に強く心惹かれるのは、あの夜の奇跡が"大勢の聴衆"とともにあったことを再確認しているからに他ならない。掛け値なしの素晴らしいライブ・テイクである。可能な限り収録されたMCの存在にも注目したい。どこか「ライブ盤」というより、古き良き時代の「実況盤」といった言葉のほうがしっくりくるような雰囲気が全体に漂っているのは、MCが残されていることが大きい。楽曲と楽曲とを繋ぐブリッジとしての役割だけではなく、会場の空気感、磁場をリアルに伝える重要なファクターになっているのだ。
また、特筆すべきはこのアルバム独特の臨場感だ。エンジニアノートに記されているような専門的な手法については、門外漢の僕にはほとんど理解の及ばない領域であるが、この作品には厳然とした「空間」が作られているように思う。リスナーの前後左右に「空間」があるのだ。どこまでも広がっていくような開放感とは違う。どちらかというと室内楽的な、ノーブルな、外界とは峻別されたリアルな臨場感。「まるで本人が目の前で歌っているようだ」という表現はよく用いられるが、単純にオーディエンスとミュージシャンとの"直線距離"だけでは説明できない立体的な音場がそこには存在している。それがミキシングやマスタリングの効果なのかどうかは不明であるが。
さて、あらためてブックレットに記されたトラックリストを見てほしい。L⇔R名義の曲なのか、ソロ名義の曲なのか一切明記されていないことに気付くはずである。これは制作者側の不親切でもなければ怠慢でもない。仮にMOTORWORKSやcurve509、Science Ministryの曲がそこに並んでいたとしても状況は変わらないであろう。現在の黒沢健一にとっては、もはやすべての楽曲が純然たる「黒沢健一」でしかなく、あらゆるレッテルが不必要であることを物語っているに過ぎない。黒沢健一はちょうど10年前の1998年6月3日、シングル「WONDERING」でソロデビューを果たした。そして、この「LIVE without electricity」のリリース日が11年目のキャリアの第一歩を標す2008年6月4日であるという事実は、偶然の産物というにはあまりに暗示的ではないだろうか。
これからがはじまりであるという気がしている。
(※追記)2008年7月9日より、iTunes Storeにて配信が開始された。アルバム購入者のみ、ボーナストラックとして「ALISON」(ライブバージョン)がダウンロード可能。