黒沢健一の音楽は、ブライアン・ウィルソンの系譜に連なる末裔の必然的帰結である。
「Our Prayer」風の荘厳なイントロを聴いた瞬間、僕はほとんど直感的にそう確信した。けれどもこの曲を、ブライアン的と一言で称するのはたぶん不当だ。単一の運動方向を失い無重力の状態で中空に浮かびあがる音世界から透けて見えるのは、ブライアン・ウィルソンの遺伝子だけではなく、黒沢健一自身のシルエットである。貪欲に音楽性の領域を広げようとするあまり、不必要なものまで取り込んでしまうミュージシャンが多い中、彼はもっとも「活かせる」部分を選んで吸収するという選択眼とバランス感覚を持ち得ている。だから、どの曲を聴いても雑味がない。この「A Little Book For Christmas」も例外ではなく、自らに刻印付けされたあらゆる必要要素を相互嵌入させて有機的統一性を構築している。また、緊迫した声を孕む言葉、噴きこぼれてくる言葉をあえてラララという響きに置換するスタイルは、2007年版「DREAM ON」とも言えるノスタルジックさを秘めているが、コーラスワークは一層複雑であり、複雑である以上に美しく繊細である。
今回Video Podcastという形で配信された2曲に関しては、外的状況が要求するものから解放され、よりコアで実験的なアプローチを実践しているように思える。攻めるレコーディングとでも言おうか。アイデアの断片からむくむくと楽曲の形が立ち上がっていく様をリスナーに空想させる魅力に満ちていて、もちろんそれらは本来、僕たちには知り得ぬ不可知の領域ではあるけれど、生の現実に近いものが実現へと移り進みながら深化していく「めざましさ」がありありと伝わってくる。
■ A Little Book For Christmas/黒沢健一