:: びっくり日記

僕の恋愛遍歴

2008.10.22

最初に付き合った女性は、マンボウのような体型でいつも真っ青な顔をしていたTだった。
とにかく口数が少なかった。彼女が12文字以上の長さで話している姿は記憶にない。会話は要点だけ。
その頃、裕木奈江と緒形拳の不倫ドラマが話題になっていた。主題歌はクニタケマリとかいってたかな。
マンボウのような体型でいつも真っ青な顔をしていたTと僕は、そのドラマを毎週欠かさず標準モードで録画して、
間違って上書きしてしまわないよう、テープのツメを折って「永久保存版」という小さなステッカーを丁寧に貼った。

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20歳を過ぎる頃、僕はJと知り合った。出逢いは運命的だった。革命が起きたと思った。
受身がちなTとは違い、Jはコミュニケーションに積極的で、紙飛行機を飛ばすことが誰よりも上手だった。
僕はビデオテープのツメ穴をセロテープで塞いで、Jと付き合いはじめた。すべてはうまくいっていた。
三流ライター山田美保子の執拗なバッシングで裕木奈江は消え、代わりに藤原紀香がCMで作り笑いしていた。
少しずつ撒き散らされるノイズが僕たちの周りにあったことに気付いたとき、Jは僕に別れを告げて去っていった。

「わたし、結婚して名字がVに変わるの。さよなら」

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Jと別れて自暴自棄になっていた僕は、吉祥寺サンロード商店街の奥の奥、
五日市街道とぶつかりそうなくらい奥の辺りでWとすれ違った。一目惚れ。革命が起きたと思った。
僕たちは朝起きてから夜寝るまでの間、延々と喋り続けた。財布には1000円2枚と100円玉9枚だけ。
早いものでWとの交際期間は3年を越えた。すべてはうまくいっていた。

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こういうのを世間ではマンネリとか倦怠期とか言うんだろうな。
Wとこのままの関係を続けていていいのか悩みはじめた頃、ラダトームの城でAちゃんとDちゃんに出逢った。
Aちゃんはおしゃれでかわいいけれど、その洗練されたセンスゆえに僕の貧しい心と共鳴しあうことはなかった。
Dちゃんはスリムで頭も良くて一見キャリアウーマン風だけど、時折「コドモ」のようなあどけない表情を見せる。
その瞬間にこぼれ落ちる爛漫な魅力の前では、あらゆる物語が静かに揺れ動き、大きく解体していく。
僕はDちゃんに関するあらゆる情報を収集することに熱中した。新聞、パンフレット、Google、代々木駅東口。
しかし、なぜかDちゃんのことを知りたいと思えば思うほど、徐々に混乱が忍び寄ってくるのである。
まるで謎解きを逆走するような展開に、僕は「わかりあえない」と思った。「アンサー」なんてどこにもないんだ。

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2008年10月某日。下北沢。晴れ。このままWと一緒にいようと決心した。

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ちなみに、「わたし、結婚して名字がVに変わるの。さよなら」と告げて去っていったかつての恋人Jは、
その後あっというまに離婚し、あっというまに大富豪と再婚して、いまではSという姓を名乗っているそうだ。
「空気が読めない若者だ」とSについて顔をしかめる大人も周囲にいるらしいが、まぁ、人生いろいろである。


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