:: びっくり日記

高橋源一郎におけるポストモダンの責務と、鉄面皮のびっくり日記について

2009.08.06

(どうか笑わないでほしい。このエントリをすべて書き上げるのに丸2週間もかかったのである)




ドナルド・バーセルミ「シティ・ライフ」を買いました。Amazonマーケットプレイスで670円でした。
アメリカのポストモダン文学の大家がドナルド・バーセルミだとすれば、日本のそれは高橋源一郎です。
競馬エッセイものを除けば、ほとんどの著作が本棚に並んでいるほど熱心な高橋源一郎ファンの僕ですが、
絶版かつ未文庫化の「ゴヂラ」(2001年)だけは、これまでなぜか見つけることができずにいたのでした。
それが、バーセルミついでにAmazonで検索してみたところ、100円で発見。マーケットプレイスおそるべし。



伝説の初期三部作と近年の文豪メタ路線をつなぐターニングポイント的な位置づけの「ゴヂラ」ですが、
現在ではほとんど顧みられることがない"忘れられた作品"です。つまり、世間的には"失敗作"扱いです。
今回ほぼ1日かからず読了しましたが、僕はただただ楽しく源一郎ワールドを堪能することができました。

物語の途中、<作者からのお知らせ>という章で突然作者である高橋源一郎が現れ、
「ごめん、この小説うまくまとめられないかも…」と、自ら物語の行き詰まりを宣言してしまいます。
虚構と現実の境界線が決壊し、フィクションの中に現実が流入すると、小説世界は客体化・舞台化します。
つまり、すべての登場人物は小説の中でその役柄を「演じていた」のだという認識が、読者側に生まれます。
アニメ「巨人の星」最終回では、主人公の星飛雄馬が「みなさん、長い間ご覧頂きましてありがとうございました」と、
視聴者に向かって挨拶する場面がありますが、その瞬間、僕たちは「長いお芝居」を見ていたことに気が付くのです。

小島信夫の「別れる理由」を例に出すまでもなく、現実世界が小説の内部へ踏み込んでしまうトリッキーさは、
メタ小説としての緊張感を持続させないと、グダグダな展開のまま放り出されてジ・エンドという危険性があります。
しかし、高橋源一郎は(やや強引ながらも)「ゴヂラ」という作品を、あるべき地点へ見事に着地させたのでした。
タイトルになっている"ゴヂラ"が、ついにその姿を現す最終章の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいほどです。
最終章に至るまでの道程は一言一句すべて、最終章の長い前フリだったのではないかと思えてしまいます。
そういった意味では、濃厚なポエジーの断片をまき散らすいつもの高橋源一郎的手法を踏襲していながらも、
実は三島由紀夫のように、明確に規程された結末に向けて収斂していく小説作法を実践したのかもしれません。

安易な自己模倣、と高橋源一郎の小説を批判することは簡単でしょう。
しかし、プログレッシヴ・ロックと呼ばれるジャンルがその名に反して旧態依然とした音楽になってしまったように、
ポストモダンという方法論が文学の世界においてすでに無力化してしまったことを、彼は重々承知しているはずです。
承知していながら確信的にポストモダンを演じてみせるその姿は、あまりに滑稽で愚かしく、だからこそ純粋なのです。

先週土曜日、かように滑稽で愚かしく純粋な高橋源一郎先生の「夏の文学教室」に参加してきました。
僕の乏しい理解力と筆力では、偉大なる先生が伝えたかったことの半分も再現できないので、
心の中と手帳の中にしたためるにとどめておくことにしますが、途中でこんな発言がありました。

誰にでもわかる小説を書いてミリオンセラーを連発するか、銀行強盗するか(笑)」

やはり、高橋源一郎の文学は巧みにコントロールされた"意識的な"ポストモダンなのです。
少なくとも、自分の小説は「誰にでもわかる小説ではない」ということを自覚しているわけですから。
(対して小島信夫は"無意識の"ポストモダンであり、作者の手を離れ、作品そのものが自律性を持つ)

高橋源一郎は拘置所に入っていた二十歳以降、言葉が話せなくなり何も書けなくなったそうです。失語症です。
やがて、リハビリとして小説を書き始めました。「ぼくはこのコップが好きだ」という一文を一日中書き続けたそうです。

+ + + + +

さて、妻ニクルがいつのまにやら臨月に突入しました(担当の先生の見解では予定日より早く生まれそうな感じ)
僕はといえば食べたり笑ったり目薬さしたり寝坊したりしながらそれなりに楽しく日々を更新して生きているわけですが、
びっくり日記を更新することに関しては、訪問者への誠実さを欠いていると言わざるをえません。誠に申し訳ありません。
試しに画面左のサイドバーから「DIARY ARCHIVES」をクリックしてみて下さい。5月は9件、6月は7件、7月は4件・・・。
そして、いま書いているこの日記は8月唯一のエントリになると思います。ベビニクルの名前を考えなくてはいけないのです。

僕は決して読者不在を嘆いているわけでもないし、日記への直接アクセスの多さに辟易しているわけでもなく、
まして気落ちしているわけでもありません。でも、何を書こうとしても冴えない。自分に響かない。手応えがない。
以前のように勢いまかせで書けないというか、余計なことばかり考えてしまうというか・・・いやーもう歳ですね(笑)
びっくりニュースはどちらかというと箇条書きの感覚に近いので、それほど更新に悩むことはありません)

例えば、僕が書く「あいうえお」という一文と、地球の裏側の見ず知らずの誰かが書く「あいうえお」は等価なのかなぁと。
署名であれ匿名であれ価値は同じ。苦しんで書いた「あいうえお」もコピペした「あいうえお」も価値は同じなのかなぁと。
そもそもこんなに自分のことばかり書いて、それを第三者が読んでくれるという自信なんてあるわけないんですけどね。
わざわざ悩むために毎月ドメインとサーバー料金を払っているような気がしてきました。なんてナンセンスなんでしょう。

ねじまき鳥ひろニクルは文字と文字との連鎖の中にしか存在しない。そして常に「コトバ」に束縛されている!

世間ではTwitterをはじめとする「つぶやきミニブログ」系のSNSが本格的に流行しているようですね。
僕も日本語版がスタートする前だったか、スタート直後だったか、アカウントだけは取りました。Twitterの。
でも、「つぶやく」ことで自分の言葉が磨耗していくのがコワくて、いままで一度もつぶやいたことがありません。
わかりやすく言えば、つぶやきまくる→びっくり日記に書くことがなくなる→ネタ切れ、という事態を懸念したのです。
びっくり日記の他に、mixi(最近はあまり更新してない)やらTwitterやら、あちこちに書きまくるバイタリティーなんてない。
しかし、逆に「つぶやく」ことが「書く」という行為を促してくれることがあるかもしれません。僕も「コトバ」のリハビリが必要?

「ぼくはこのコップが好きだ」
「ぼくはこのコップが好きだ」
「ぼくはこのコップが好きだ」
「ぼくはロボコップが好きだ」
「ぼくはこのコップが好きだ」


(本来ならばいつくかのエントリに分けるべき内容だが、混濁への衝動がこんなダルい文章を僕に書かせたのである)


■ 8月の長い夜/TM NETWORK


> 先生とは別のもう一人のKK情報。
>
> 突然の活動終了&またもや国内脱出で海外でボランティア活動してたKKが
> 半年振りにラジオ出演しましたよ。ちょくちょくレコーディングはしているけど、
> 今後はもうレコード会社や事務所に所属しての活動は興味が無いのでしないそうです。
> ラジオでの登場紹介も本名での紹介だったので、
> ブログのタイトルが今後の活動名義なのかも結局不明のままです。
>
> 以上、KK情報でした。


貴重な情報ありがとうございます。そちらのKKさんのことは、完全に忘れておりました。
例のブログも最初はまめにチェックしてたんですけど、途中からなんかもうどうでもよくなった(笑)
完全にセルフプロデュースで活動していくということですね。昔の曲はもう歌わないんでしょうか。
KKといえば、遅くなりましたがカヒミさんご結婚おめでとうございます!ドレス姿きれい過ぎでした。

> こんにちは、sproutです。
> MIXUPイベントは残念ながら不参加だったのですが、
> レポから当日の様子が伝わってきました。ありがとうございます。
> 今回初めて先生の歌を聴いて惚れた人もいるかもしれませんねー。
> そんな事を妄想しながら、今回のセットリストプレイリスト作ったり、
> リミエディDVDを見たりして、暑さを凌ごうと思います。
> ニクルファミリーも皆様ご自愛くださいませ。ではでは。


sproutさん、こんにちは。拙いライブレポで申し訳ないです・・・。ありがとうございます。
イベント当日はハリーさんと帰りの電車が一緒で、少しsproutさんのこともお話ししましたよ。
実は世田谷のイベントで牧村さんと津田さんがどんなことを話したのか結構気になっておりまして、
ハリーさんとsproutさんのご報告を気長に待っています!・・・と言ったらプレッシャーでしょうか(笑)

> ひろさんこんにちわ!
> この度も2009.07.24恵比寿リキッドルームの詳細レポありがとうございます。
> びっくりはいつ訪問しても楽しめます。たとえライブに参加してなくても行った気分に・・・
> そのくらい細かいのでファンにとってありがたい存在です。レポはメモるんですか?
> ライブに集中している中とても冷静ですよね。誰でもできることではありません。
>
> ところで秋のツアー札幌やっと実現です。
> 『LIVE without electricity』を目の当たりで体感できることに今からワクワクなんですけど、
> ひろさんは札幌遠征はされるでしょうか?ベビニクルさんのことで大忙しになっていますでしょうか?
> 札幌来られましたら、ライブ後のノリのまま、ススキノにあるビートルズライブハウスにご案内したいですね。
> 黒沢さん、遠山さんも巻き込んでみんなで(お店は狭いのです)繰り出せたら最高ですけどね!


メッセージありがとうございます。ライブ中も冷静なひろさんです。
ライブが終わった直後、まだ記憶が鮮明なうちに重要なポイントをメモするくらいですよ。特に最近は。
ライブレポの不正確さでは人後に落ちないと自負する僕ですから、いかに想像力で補完するかが勝負です(笑)
札幌決定、良かったですね。ベビニクルが生まれたらさすがに遠征遠征というわけにもいかなくなりますねぇ。
でも、先生のおかげで今まで幸せすぎるくらいたくさん遠征することができたし、もう心置きなく引退します。
札幌アコースティックライブは間違いなく素晴らしいものになると思いますよ。ご報告お待ちしております。



メッセージはお気軽にどうぞ。

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