:: びっくり日記

LIVE 2011 | 年末歌い納め~NEW DIRECTION~

2011.12.10

公式サイトの告知では「NEW DIRECTION(ニューダイレクション)と題し、ギター・ピアノ・チェロ・トランペット・サックス+α・・・と、新たなセッションを試みます」とのことで、トランペット:木幡光邦、サックス:米田裕也、チェロ:原口梓、ピアノ:遠山裕という名うてのメンバーが結集した3年目のグローブ座ライブ。レコ発ライブではない分、初出曲・レア曲が多めだったように思います。

オープニングは健一先生を除くメンバー4人で、しっとりと、ジャジーに、ムーディーに「Maybe」。いやーすごいアレンジですねこれ。全然表情が違うからはじめは何の曲かわからなかったです。今回のバンドで「黒沢健一インストゥルメンタル集」なんてCD出たらいいな。おしゃれなバーのBGMにも使えそう。

会場の温かい拍手の中、健一先生が登場し、ここからしばらくはフルメンバーでの演奏タイム。ライブ序盤のハイライトはなんといっても「AMERICAN DREAM」でしょう。L⇔R時代も演奏されなかった名曲。あまりの難曲っぷりに日本中のL⇔Rフリークをカラオケで轟沈させた名曲。先生の小粋なハットさばきも見ものでしたね。被ったり脱いだりマイクスタンドにかけたり。なかなかサマになってました。

おなじみの「Rock'n Roll」も、今回のバンド編成ではかなり表情が変わります。イントロから各楽器があの不穏な和音を奏で、音の壁が迫ってくる感じ。ウォール・オブ・サウンド。2番の出だしの歌詞がすっ飛んだけど、別に誰も何も思いません。もう先生のライブのお約束みたいなものなので(笑)

【黒沢健一豆知識】中学の頃コルネットにチャレンジしたことがあるらしい。でも難しいし、息切れはするし、本当に大変なのだそう。つまり今回のバンドは先生の「憧れ」が投影されたものらしい。そんなわけで、昔、バンドの練習をしていた友達んちのガレージ(?)をイメージしたステージセット(廃材とか古タイヤとか金網とか)が組まれたとのこと。なかなか雰囲気ありましたね。

ここでいったんメンバーは下がり、ステージには先生ひとり。「休憩時間に一曲歌わせていただきます」とか言ってて、あなたが主役ですよ!と心の中でツッコミいれたら、先生も「自分のソロライブなのにね」と無事にひとりツッコミ完了。MOTORWORKSの「(A Place Where) Love Goes Withered」。最高。こういった、どちらかと言えばアルバムの中では地味めなポジションの曲にこそ、黒沢健一の才能が高純度で表出するような気がしてます。それは、Science Ministryしかり。

メンバーをひとりずつ入れ替えながらのステージ。まず黒沢+遠山+トランペット木幡さん。しっとりとしたトランペットソロに続いて、ピアノが四分音符を刻みます。「あ、Grow」と思った次の瞬間、歌い出されたのは「♪あいまいに~」て、オイオイまさかの「SWEET WONDERING」かよー!当然Science Ministryのライブ以降は演奏されておりません。テンポを落として、一語一語をしっかり伝えるように。間奏ではピアノは跳ねるし、先生はミネラルウォーター飲みながらスウィングしてるし、トランペットのアドリブは炸裂するし、思わず先生もオーディエンスに拍手を要請するという、まるでジャズコンサート的な感じでした。次に、黒沢+遠山+サックス米田さんと「Silencio」。これも名演でした。哀感たっぷりの歌伴が素晴らしく効果的。そして吹きまくり泣きまくりの間奏。静謐さの中に隠されていた、この曲の「慟哭」を表現し切ったのだと思います。サックスの熱演に同調して徐々に熱を帯びていく先生のギターも迫力がありました。続いて黒沢+遠山+チェロ原口さん。紅一点の原口さんを紹介する際、ヴィーナスに崇めるかのようにひざまずく先生(笑)。チェロの伸びる音が好きだなー。

MCでは遠山さんソロ活動の話。アイドルとしてもう一花咲かせたいそう。その「遠山さんのライブを観に行った話」を、先生がマンガにしたことがきっかけで、カレンダー製品化に繋がったんだとか。でも、他の書き下ろし作品と一緒にデザイナーさんに渡したら、「遠山さんのライブを観に行った話」そのものがボツになったらしい(笑)

遠山さんと二人だけの「バラード」は白眉。先日のTOKYO-FM公開ライブで披露されたとき、現在の先生の声質にとてもフィットしていると感じまして、アルバム「B」収録曲は、いまこそもっと歌われるべきだ、とさえ思ったわけです。間奏から歌に戻るところとか、なんとも言えない不思議な感覚。

もちろん「方舟」は先生の弾き語り。ギターの演奏が毎回微妙に変わっているような気がします。一応「V.S.G.P」に収録されたスタジオバージョンが基本であり、かつ完成形であるわけですが、あくまで「一応」というわけで、ますます変化・進化していきそうな気配がありますね。

「♪僕らは地図をなくしたまま」と歌い出されたのは新曲のようです。越えていける。何も怖くはない。何ひとつ悲しまずに。震災後に書かれた楽曲でしょうか。決して直接的なメッセージではないのですが、そこに厳然たる彼の意志は存在しているように思いました。そして先生は新曲をライブで披露することは多々あっても、その場で曲名を紹介するケースは稀です。しかし、今回はあえて「言うべき理由」があったんでしょう。もっとも、先生の発音があまりに良すぎてタイトル聞き取れなかったんですけど。なんとかなんとかHands、みたいな。そういえば序盤のMCにも「愛を込めて演奏したいと思います」だなんて言葉もあって、僕はハッとしたんです。そんなストレートな言い方っていままであまりなかったように思えて。いや、すぐに外的な事象と結びつけてしまうことは早計に過ぎるかもしれません。震災後に変わったのは、ミュージシャンの言葉ではなく、リスナーの「聴き方」なのかもしれないのです。

ステージ下手から、すすっと現れてカポタストをつけ忘れた先生を優しくフォローするスタッフ「ホリベちゃん」。アップテンポなロックチューンを披露するので、オーディエンスにパーカッションを要請する先生。「バンマス、カウント出してくれ…」と、なぜか命令形で先生から指示を受けた遠山さんの正確無比なカウントから始まったのは、なんとアルバム「first」収録の名曲「Love Love」!初出!レア!みなさんご存知のとおりこの曲はちょっと特殊ゆえに、ライブで再現は難しいと思われていましたが。いやー嬉しいです。演奏後に、今度はカポタストを外し忘れたまま次の曲に行こうとする先生を見かねて、ステージ下手から再び「ホリベちゃん」登場。みんなに助けられて音楽活動できている、とは先生の弁(笑)

「みんなに送りたいメッセージがあるんだ。オール、アイ、ウォント、イズ、ユー!」と、名曲の誉れ高き「ALL I WANT IS YOU」。トランペット効いてたなー。よりいっそうビートルズ色が増したような。間奏では久しぶりのハンドクラップ楽しかった!そして先生マイクスタンド倒した。

アンコールは、まずニューダイレクションくんTシャツに着替えた先生がひとりで登場。歌い出したのは、なんとL⇔Rの「ONE IS MAGIC」!ワンコーラスのみとはいえ、もうほとんど伝説の域にある名曲を生歌で聴くことができて感激しました。そのままメドレー形式で、アルバム未収録の「Rock'n Roll Band」へ。AメロBメロはほとんどギターを弾かず、字余り気味のメッセージを連ね、エンディングはフェイク!フェイク!で盛り上げた後に、ジャンっと不協和音を一発叩きつけて曲を「終わらせた」。いつ音源化されるのコレ。

ここでまた新曲。君の歌うラブソング。ありふれているラブソング。あのメロディーを。あのメロディーを。素朴だけど慈愛に満ちた優しい曲だったなぁ。なんていうタイトルなんだろう。メモカぴあ(ライブ観る前に注文済)でチェックしないと。

ニューダイレクションズのメンバー全員がステージに戻り、本編ラストに演奏された「遠くまで」。いままで何度も何度もライブで聴いてきた「定番曲」なんだけど、今年は全然「違うもの」として響いてきました。あまりに過酷な現実を生きなければならない時代にあって、「きっと大丈夫さ」という言葉のシンプルな生命力に、思わず涙が出そうになりました。それは安易なセラピーなんかではなく、誰しもが感じている「心の欠落」を、「今を生きる真実」として見直すことに他ならないのです。トランペットもサックスも、楽曲の生命力に呼応するかのような快演でした。歌メロの裏でも、間奏でも、とにかく縦横無尽に鳴りまくっていた印象。そのアレンジはとても原曲に献身的だと感じました。原曲に献身的でありつつ、どれだけ原曲から離れた位置へ楽曲の心臓を運んでゆくのか。アレンジの真髄はそれしかないと思っています。その意味で、今回の「遠くまで」は完璧な成功例だったと断言できます。

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帰宅後、妻ニクル(プチと一緒にお留守番でした)とセットリストを確認しながら話をしていて気付いたんだけど、今日演奏したL⇔R時代の曲って「AMERICAN DREAM」「Package」「RED&BLUE」「ONE IS MAGIC」で、全部アルバム曲なんですよね。L⇔R以外でも「Love Love」とか「SWEET WONDERING」とか結構ツウ好みな選曲で、ファンならニヤリだと思うんですが。反対に、L⇔Rのヒット曲やシングル曲がモリモリ聴きたいと思って足を運んでみた人(そういう方も実際にいらっしゃいました)にとっては、多少物足りなさもあったかもしれません。今年は「Knockin' on your door」も「Hello, It's Me」も「Remember」もないし、昨年のライブのほうが楽しめたという人がいてもおかしくないですよね。感じ方は千差万別、人それぞれです。

先生のボーカルはブランクを感じさせない力強いものだったし、MCで「こういったベースなしドラムなしの形態で歌うのは結構疲れるんですよ」という意味のことを言っていたとおり、バンドの演奏自体も非常に高次のものであったことは確かです。だけど昨年は純粋な新作ではないにしても、「V.S.G.P」というオリジナル作品のリリースがあって、そのコンセプトを根拠にステージが展開されたわけですが、今年は作品がありません。昨年と同様にアレンジの妙味で楽曲を聴かせるにしても、リリースなしという状況において、どうしても説得力・必然性の弱さが拭い切れない面が感じられたことも事実です。もちろんマンネリという言葉は妥当ではなく、常に「表現の冒険」を続ける先生の試みは賞賛に値するものですが、弾き語り→弦カル→金管と来て、この次はいったい何があるんだろう・・・と。まぁ、先生ならば僕たちの期待を(良い意味で)鮮やかに裏切ってくれるはずなので、これっぽっちも心配する必要はないんですけどね。

願わくは新作も聴きたい!「Rock'n Roll Band」「メランコリー」「赤と黒のブルース」「So what?」、そして今回のライブで披露された2曲。他にも眠っている曲はきっとたくさんあるはず。来年は新作アルバム(名盤)リリース、そして全国ツアーを!

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LIVE 2011 年末歌い納め~NEW DIRECTION~
2011.12.10(Sat) 東京グローブ座
SETLIST

01. Maybe (instrumental)
02. Round Wound
03. AMERICAN DREAM
04. Package
05. Rock'n Roll
06. SPEAK EAZY
07. (A Place Where) Love Goes Withered
08. RED&BLUE
09. SWEET WONDERING
10. Silencio
11. Wondering
12. バラード
13. 方舟
14. (新曲)
15. Love Love
16. Do we do
17. ALL I WANT IS YOU
EN
18. ONE IS MAGIC~Rock'n Roll Band
19. (新曲)
20. 遠くまで
EN2
21. Rock'n Roll



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