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Feel it / POP SONG

Feel it / POP SONG5th Single / 2007.12.5 / iTunes Download Only

異才は沈まず。

ソロ名義では5年ぶりとなる待望の新曲。curve509、健'z、Science Ministry、MOTORWORKSなどの活動を経て、さらに幅の広がった音楽性を提示してくるのだろうと期待していた僕は、その「あまりにも変わらない」、良い意味でどこまでも黒沢健一的な音楽性に深い安堵と驚きを覚えた。この不変のスタンスは衝撃的ですらある。久しぶりの新曲リリースでありながら、そこには「力み」や「不退転の決意」のようなものがまるで漲っていない。肩肘張ることなくごく自然に、これまでの黒沢健一という記号の連続性のなかで自らのクリエイティビティに忠実であり続けている。揺らがない。長い間行方不明になっていた飼い猫が、ある日突然何事もなかったようにすまし顔で帰ってきて、しかし次の瞬間から日常の景色のひとつとして溶け込んでしまうように、黒沢健一のあまりにもさりげない凱旋のメロディーは僕たちの心のすきまに一瞬で溶け込んでしまった。そこには時間の断絶があったことなど微塵も感じられない。「失われた5年」は楽曲の中にたしかに躍動しているのだろうが、それをリスナーに簡単に見透かせないのが黒沢健一の美点であり才能だ。今回発表された2曲は、様々なユニットでの活動、楽曲提供、サポートなどの過酷な混沌の中にあっても、一貫した黒沢健一の世界が確立していることを証明するものであり、その滋味は自己模倣というレベルをはるか遠くに飛び越え、もはや孤高の世界、孤絶の世界と言ってもいい。それゆえ彼の音楽は永遠の現在なのである。

01. Feel it

シンプルで明快なポップチューン。メロディーの性格は、MOTORWORKSでもScience Ministryでもcurve509でもなく、純粋な「黒沢健一」である。このどうしようもなく「黒沢健一」であるという感覚は、うまく言葉にすることができない。Aメロのひねくれたメロディーの昇降、心浮き立つサビの上昇メロディー(The Zombies『She Does Everything For Me』だろうか)。そしてワンコーラス終了後、間奏へと突入していく瞬間のカタルシスは、curve509の「DA・DA・DA (yogurt Version)」を想起させる。カラフルな光彩を放ちながら世界が一気に広がっていくような、あの感覚だ。親しみやすくも、バンド編成のライブで聴いてみたいと思わせるパワフルさを秘めた名曲である。

02. POP SONG

派手さこそないが、とにかく黒沢健一純正のしなやかなメロディーが素晴らしい。イントロのフレージングには、桑田佳祐「祭りのあと」、Marshall Crenshaw「Distance Between」、L⇔R「COWLICK」、浜田省吾「AMERICA」あたりのニュアンスを感じさせる。必要以上に大仰でドラマティックな展開を演出するわけでもなく、メロディーの輪郭からじわじわとにじみ出てくる哀感こそが彼の真骨頂。緩急や強弱も自在のまろやかなボーカルは、より一層表現力を増しており、まさに黒沢健一が現在進行形のボーカリストであることを強く実感する


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008

September Rain

1st Video Podcast / 2007.12.5 / iTunes Download Only

黒沢健一と映像作家の大日方琢視による映像・音楽のコラボレーション。Video PodcastとしてiTunesで無料ダウンロードが可能だ。ごく有態に言ってしまえば、感想なんてものは出てこない。考えようとすればするほど楽曲のきらめきは霞んでしまい、意識は楽曲の内側に吸い込まれて霧散してしまう。

自由闊達なメロディーは、ある一点へ着地することを拒み、重厚なコーラスの狭間でもつれあい、いつしか静寂へと反転していく。この陶然たる世界は、声の緊迫、言葉の無垢と表裏一体をなす黒沢健一の音楽様式にほかならず、いまや彼にしか許されない語法ではないだろうか。それは例えば、「Pet Sounds」~「SMiLE」~「Friends」期のThe Beach Boysに認められる陰と陽が入り乱れた物憂げで乱調な音世界に近い手触りであり、初期L⇔Rが獲得した初出の手触りである。

正直に言えば、僕にとって今回の映像パートはそれほど重要なものには思えなかった。「September Rain」という楽曲そのものが黒沢健一の空想の翼の忠実な反映であり、充分に映像的なものとしてプログラミングされているように感じるからだ。そしてこのわずか2分弱の世界が、思考することを放棄した僕の心に喚起させたのは、癒しでもなければ浄化でもなく、不穏な胸のざわめきと非日常の余韻であった。


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008

Scene39 / Love Hurts

Scene39 / Love Hurts6th Single / 2007.12.19 / iTunes Download Only

01. Scene39

今月配信された新曲4曲(+Podcast2曲)の中で、この「Scene39」がもっとも明快なポップスらしいポップスであるという印象を受けた。イントロのアレンジなどは俗化するぎりぎり手前の危うさを抱えているという気もするが、全体的にはいい意味でルーズというか、リラックスした作風になっていて、肩の力を抜いて気楽に聴ける。しかし何度も繰り返し聴くうちに、軽やかに弾む豊かなメロディが時間の節目を解きほぐし、揉みほぐし、過去も現在(まさにScene39)も呑み込んで消化して、ひとつの柔らかい流動物となって流れ出てくることに気付かされる。そして、そこにも黒沢健一の迷宮が存在していることを知り狼狽してしまう。つまり、ポップスに対峙するとき、またポップスを「実現」しようとしているときの彼の眼差しは(それがたとえ無意識下にあったとしても)意図的であり、方法的であり、野心的なのであろう。黒沢健一の作り出す音楽は、もちろん表現・手法・技術の関係が何重にも畳み込まれたものではあるが、一方ではすでにテクニックからは解放され、自由になっている。そうでなければ迷宮なんて作り得ない。余人との風格の違いを見せつけるそのセンスは高く評価されてしかるべきであると思うが、黒沢健一の才能をもっとも過小評価しているのは黒沢健一本人なのではないか。Scene39というステージを迎えて、彼の活動は新章に突入したといえるだろう。

02. Love Hurts

名曲。本人がすでに「DI:GA」2007年12月号のインタビュー記事で言及しているとおり、メロディの性格は多分にヨーロッパ(英国)志向であり、ギルバート・オサリバンのような、ときにポール・マッカートニーのような佇まいを見せる。もちろんそこには黒沢健一というキャリアの集積や身体性も反映されていて(TOO LONELY TO SEE!)純然たるオリジナリティーの輝きを見せている。そもそも洋楽的なスタイルをベースとして、そこに時に応じて様々な音楽要素を溶け込ませてゆくのが彼の特長であり、今作もまた「黒沢健一の正攻法」に乗っ取った黒沢健一らしい楽曲と言えるだろう。ロック・クラシックス、または過去の自作曲とある一定の距離を取りつつ、しかしそれら名曲の呼吸を「確実に」現在の息づかいとする。そして断片と断片をつきあわせ、照応させて、そこに断片を超える別の物語を複層的に沸き上がらせる。こんな芸当は彼にしかできない。


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008

A Little Book For Christmas

2nd Video Podcast / 2007.12.19 / iTunes Download Only

黒沢健一の音楽は、ブライアン・ウィルソンの系譜に連なる末裔の必然的帰結である。「Our Prayer」風の荘厳なイントロを聴いた瞬間、僕はほとんど直感的にそう確信した。けれどもこの曲を、ブライアン的と一言で称するのはたぶん不当だ。単一の運動方向を失い無重力の状態で中空に浮かびあがる音世界から透けて見えるのは、ブライアン・ウィルソンの遺伝子だけではなく、黒沢健一自身のシルエットである。貪欲に音楽性の領域を広げようとするあまり、不必要なものまで取り込んでしまうミュージシャンが多い中、彼はもっとも「活かせる」部分を選んで吸収するという選択眼とバランス感覚を持ち得ている。だから、どの曲を聴いても雑味がない。この「A Little Book For Christmas」も例外ではなく、自らに刻印付けされたあらゆる必要要素を相互嵌入させて有機的統一性を構築している。また、緊迫した声を孕む言葉、噴きこぼれてくる言葉をあえてラララという響きに置換するスタイルは、2007年版「DREAM ON」とも言えるノスタルジックさを秘めているが、コーラスワークは一層複雑であり、複雑である以上に美しく繊細である。

今回Video Podcastという形で配信された2曲に関しては、外的状況が要求するものから解放され、よりコアで実験的なアプローチを実践しているように思える。攻めるレコーディングとでも言おうか。アイデアの断片からむくむくと楽曲の形が立ち上がっていく様をリスナーに空想させる魅力に満ちている。もちろんそれらは本来、僕たちには知り得ぬ不可知の領域ではあるけれど、生の現実に近いものが実現へと移り進みながら深化していく「めざましさ」がありありと伝わってくるのである。


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008

LIVE without electricity

LIVE without electricity1st Live Album / 2008.6.4 / KZCD-1011

01. DAY BY DAY
02. Scene39
03. Feel it
04. SOCIETY'S LOVE
05. Rock'n Roll
06. 遠くまで
07. This Song
08. Love Hurts
09. Hello It's Me
10. Bye Bye Popsicle
11. Lazy Girl
12. PALE ALE
13. Younger Than Yesterday
14. リトル・ソング
15. God Only Knows
16. ブルーを撃ち抜いて

シングル「PALE ALE」のカップリングに、「Rock'n Roll」「Round Wound」のライブ音源が収録されたことはあったが、アルバム単位としてはソロ初のライブ作品である。2007年12月29日に渋谷DUO MUSIC EXCHANGEで行なわれた「ソロライブ2007『年末歌い納め』~*配信はじめました。~」から厳選された16曲を収録。L⇔R時代に発表された4枚組CD「LIVE RECORDINGS」は、様々な時代、様々な会場の名演を集積した"ライブ・コンピレーション"であった。つまり、L⇔Rの歴史を振り返りながらそれまでの活動を総括するというヒストリカルな要素が大きく、今回リリースされた「LIVE without electricity」とは大きくコンセプトが異なる。「LIVE without electricity」はあくまで"あの日あの場所あの時間"をそのまま封じ込めた一回性の「ドキュメンタリー」であり、それは単に作品世界に統一感をもたらすといった以上の意味を持つ。

One Time, One Place.

同日収録ゆえ、ただそこに連続するものがパッケージされているのみで、それ以外の属性は一切ない。もちろんこの作品に刻み込まれているのは黒沢健一の一部に過ぎないのだが、それでいて全部かもしれない。もし時間がそこで止まってしまったとしたら、ここから聴こえてくる音が黒沢健一のすべてなのである。そして、必ずしも名演が名盤になるとは限らない。ライブ盤は恐ろしい。果たして「LIVE without electricity」は、オーティス・レディング「Live In Europe」のような高揚感と、ローリング・ストーンズ「Get Yer Ya-Ya's Out!」のような緊張感を併せ持つ、稀代の名盤となった。

「アコースティック?黒沢健一も随分おとなしくなっちゃったね」と嘲笑混じりに語る人がいるかもしれない。とりあえず「SOCIETY'S LOVE」と「PALE ALE」を聴いてみてほしい。その鬼気迫るドライブ感と咆哮を聴けば、この日のライブがいわゆる「弾き語り」「アンプラグド」とは全く別種のアプローチであり、レイドバックなんて都合のいい言葉で語られるような枯淡の境地とは相容れぬ世界であることは明白だ。アコースティックを標榜していながら、生々しいピアノ&ギターと力強い歌声が渾然一体となって生み出されるスリリングさは充分に先鋭的であって、リスナーの既成概念に激しく挑戦する瞬間を秘めている。一方で、「This Song」ではジョージ・ハリスンに似たコード進行が顕わになり、「Lazy Girl」イントロのギターには、あらためてトミー・ロウ的要素が顔を覗かせるなど、楽曲の骨格がわかりやすい形で伝わるのは、ピアノとギターというシンプルな楽器編成ゆえの発見であろう。

「Scene39」の爽快な躍動感、「Love Hurts」の艶かしさ。どこまでも鮮烈な「Younger Than Yesterday」、エモーショナルで感動的な絶唱「ブルーを撃ち抜いて」。聴きどころは多い。なかでも僕が「SOCIETY'S LOVE」「Bye Bye Popsicle」「Lazy Girl」等、オーディエンス参加型の楽曲に強く心惹かれるのは、あの夜の奇跡が"大勢の聴衆"とともにあったことを再確認しているからに他ならない。掛け値なしの素晴らしいライブ・テイクである。可能な限り収録されたMCの存在にも注目したい。どこか「ライブ盤」というより、古き良き時代の「実況盤」といった言葉のほうがしっくりくるような雰囲気が全体に漂っているのは、MCが残されていることが大きい。楽曲と楽曲とを繋ぐブリッジとしての役割だけではなく、会場の空気感、磁場をリアルに伝える重要なファクターになっているのだ。

また、特筆すべきはこのアルバム独特の臨場感だ。エンジニアノートに記されているような専門的な手法については、門外漢の僕にはほとんど理解の及ばない領域であるが、この作品には厳然とした「空間」が作られているように思う。リスナーの前後左右に「空間」があるのだ。どこまでも広がっていくような開放感とは違う。どちらかというと室内楽的な、ノーブルな、外界とは峻別されたリアルな臨場感。「まるで本人が目の前で歌っているようだ」という表現はよく用いられるが、単純にオーディエンスとミュージシャンとの"直線距離"だけでは説明できない立体的な音場がそこには存在している。それがミキシングやマスタリングの効果なのかどうかは不明であるが。

さて、あらためてブックレットに記されたトラックリストを見てほしい。L⇔R名義の曲なのか、ソロ名義の曲なのか一切明記されていないことに気付くはずである。これは制作者側の不親切でもなければ怠慢でもない。仮にMOTORWORKSやcurve509、Science Ministryの曲がそこに並んでいたとしても状況は変わらないであろう。現在の黒沢健一にとっては、もはやすべての楽曲が純然たる「黒沢健一」でしかなく、あらゆるレッテルが不必要であることを物語っているに過ぎない。黒沢健一はちょうど10年前の1998年6月3日、シングル「WONDERING」でソロデビューを果たした。そして、この「LIVE without electricity」のリリース日が11年目のキャリアの第一歩を標す2008年6月4日であるという事実は、偶然の産物というにはあまりに暗示的ではないだろうか。

これからがはじまりであるという気がしている。

(※追記)
2008年7月9日より、iTunes Storeにて配信が開始された。アルバム購入者のみ、ボーナストラックとして「ALISON」(ライブバージョン)がダウンロード可能。


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008

Outtakes from LIVE without electricity

Outtakes from LIVE without electricity2008.7.9 / iTunes Download Only

CD版「LIVE without electricity」に収録されなかった「POP SONG」「Missing Piece」を、iTunes Storeにて限定リリース。この2曲と、配信版「LIVE without electricity」のボーナストラック「ALISON」を合わせると、ライブ当日のほとんどの音源を聴くことができる(※「September Rain」「Mad Man Across The Water」、黒沢秀樹参加曲を除く)

01. POP SONG (live ver)

「Feel it」と同時配信され、黒沢健一健在を印象付けた名曲。

02. Missing Piece (live ver)

MOTORWORKSの2ndシングル。作詞・黒沢健一/石田ショーキチ、作曲・黒沢健一。


REVIEW::黒沢健一 | 2007-2008