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L⇔R

L⇔Rのディスクレビュー。だいぶ昔に書いたもの。
とりあえずは、オリジナル・アルバムのみ、です。


REVIEW::L⇔R

L

L1st Mini Album / 1991.11.25 / PSCR-1039

5000枚限定で発売されたデビュー・ミニアルバム。戦慄の「Lefty in the Right」への序曲と呼ぶには、その完成度の高さは圧倒的。小難しい音楽理論をサラリと飛び越えた、まさに右脳による右脳のための音楽。耳の肥えたポップス志向リスナーに与えた衝撃は想像に難くない。

01. Bye Bye Popsicle

早くもこの時点で、彼らの才能の片鱗どころか全貌が一気に表出したといっても言い過ぎではないだろう。豊潤なコーラスの波間から流れ落ちるエバーグリーンのメロディ。完全無欠のポップソングであると同時に、ビートルズを隠し味にしたAメロや間奏パートで聴かれる見事なサウンド・コラージュ感覚に、“音”に対するメンバーの研ぎ澄まされた才覚を実感することができる。

02. Love is real?

自ら“アーティスト”と呼ばれるのを嫌い、“ミュージシャン”であることにこだわりを見せる黒沢健一であるが、この曲は紛れもなく「アート」である。ギギィとドアの開く音に続いて「すべて忘れ去りここへやってこい」とBeach Boys“Surf's Up”を彷彿させるメロディを健一が紡ぎ出した途端、聴き手はどこか遠くへ連れていかれるような感覚に襲われる。転調するサビ。「倒れるドミノ」というキーワードと一本の線で結ばれるのは、やはり“Surf's Up”。深いエコーのなか繰り返される「Love is real?」という問いかけのノスタルジックな陰鬱と悲哀に、聴く者のイマジネーションは絶え間無くかき立てられる。美しき4分弱のポップアート。

03. PACKAGE・・・I missed my natural

黒沢秀樹の詞もかなり“キテる”が、黒沢健一に舞い降りたメロディとグルーヴ感、Manfred mannの“My Name Is Jack”からの引用をはじめとする、無数に散りばめられた効果音と構成能力にも着目したい。音響的な実験性をあらわにしていたこの初期L⇔Rを知る上では、決して欠かすことのできない名曲のひとつである。

04. A GO GO

'60年代ブリティッシュ・ビートや'80年代パワーポップへのオマージュに満ちた、疾走感あふれる名曲。印象的なドラムのリズムパターンは、The Three O'Clockの名曲「With Cantaloupe Girlfriend」を想起させる。Aメロでメロディをなぞる左チャンネルのギター、Bメロ前半からブォブォと鳴り続く右チャンネルの管楽器、Bメロ後半で左右から聞こえるギターの細やかなフレーズに注目。この時点で、彼らの音に対する異常なほど繊細かつ鋭い感覚を窺い知ることができる。「眠くても It's Alright」の部分は、Dave Clark Fiveの“Can't You That She's Mine?”と相似。

05. Northtown Christmas

イントロが鳴り響いた瞬間に浮き上がる立体的な音世界。そしてELO「Midnight Blue」を思わせる荘厳な歌い出し。エンディング近く「心まで凍りそうさ」部分のファルセットに、何度心が震えたことか。幾重にも重ねられた世にも美しいコーラスパートの共鳴が繰り返され、やがてフェードアウト。このマジカルなクリスマス・ソングは、静かにアルバムの終わりを告げる。


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Lefty in the Right [左利きの真実]

Lefty in the Right1st Album / 1992.4.25 / PSCR-5167

戦慄のデビュー・フルアルバム。このアルバムを初めて聴いたときの衝撃は忘れられない。散りばめられた甘美で哀切なメロディー。洋楽のエッセンスを高度なセンスで解釈し、偏執的とも言える愛情を注ぎこんで再構築してみせた、'90年代ジャパニーズ・ポップスの分水嶺となった大傑作。しかし、今後名作を量産していく彼らにとって、この作品ですら単なる一里塚でしかなかった。初回限定三方背BOX仕様。'97年に新装再発(PSCR-5294)され、花井肇氏によるライナーノーツが追加された。限定アナログ盤もあり(PSJR-9104)

01. Lazy Girl

Four Seasonsの“Walk Like A Man”のサンプリングからこの衝撃の名曲は幕を開ける。躍動するコーラス。失速することを知らないRockpile「now and always」風のメロディ。突然転調したかと思えば、ファルセットとコーラスの応酬で突き進むサビ。音楽なんて単なる“おたまじゃくし”の上下にリズムをつけただけだろ!? そんな楽典を彼らは笑顔でビリビリ破り捨てた。もはや狂気すら感じさせる名曲中の名曲である。天国で、困惑ぎみの表情を浮かべつつも拍手喝采している Roy Orbisonや、Buddy Hollyや、John Lennonの姿が目に浮かぶ。ロック・クラシックへの惜しみない愛情とともに、天才はこの楽曲に未来と自己を投影させた。

02. 7Voice

黒沢健一の職人的美学すら感じさせる名曲。まず、メロディの構成力がすでに常人の発想の域を超えている。XTC“Earn Enough for Us”を思わせるイントロ、多彩な声色・音域の使い分けで2段階に変転するBメロから哀愁のサビへと、全く違和感を感じさせることなく展開する。天才は、これだけ八方破りな手法を用いても決して器用貧乏にならないのだ。テープ逆回転SEを効果的に使用したり、プロモ盤「R」収録バージョンのイントロを2コーラス目の頭に挿入したりと、こういった計算された遊び心もさすがL⇔Rと唸らせる。

03. Bye Bye Popsicle [version]

前曲から間を置かずに流れ出すこのイントロは、やはり鮮烈かつ衝撃的。「L」収録バージョンと異なり、エンディングで流麗なオーケストラアレンジが施された。シングル収録の[version]ともまた異なるテイクなので要注意。

04. Holdin' Out [You&Me together]

どうしてこんな曲が作れるんだろう。「ため息ばかりついているのかい?」という歌い出しの瞬間は何度聴いても身震いを覚えるし、「But love」「What's love」とファルセットでふわりとBメロへ移行する瞬間がたまらなく気持ち良い。幾重にも重ねられたコーラスに彩られるサビの哀愁メロディーも文句なしの素晴らしさ。起伏に富んだ曲展開のアイデアの実践が、最高の形で結実した大名曲。

05. Love is real? [version]

ここで一息・・・とコーヒーカップを持つが、この恍惚としたメロディにうっとりするあまり、コーヒーをこぼす。このアルバムは聴き手に一時の猶予すら与えてくれないのだろうか。「L」収録バージョンとは異なり、イントロのドア音SEは無し。

06. Motion Picture

鳴り響くブラスのイントロから、もうワクワクとした高揚する気分を抑えられない。DAVE CLARK FIVEへの敬愛。歌い出しの絡み合うコーラスはまさに魔法のような一瞬。オール英語詞。エコーの渦の中、この曲を心の底から楽しんでステージでプレイするメンバーの姿が眼前に浮かぶようだ。

07. I Can't Say Anymore

L⇔Rの前身、ラギース時代から演奏していた曲のひとつ。嶺川貴子のコーラスもキュートだが、黒沢健一の囁きかけるような唱法も巧みだ。

08. PACKAGE・・・I missed my natural [ALTERNATE MIX]

「L」収録のオリジナルバージョンから大胆にアレンジが加えられた。

09. With Lots of Love Signed All of Us

これほど見事なコーラスワークはそうそう聴けるものではない。Beach Boys並みに複雑な声と声との交錯が、そのまま次曲のイントロへと収斂され、なだれ込んで行く様は圧巻。

10. [Fresh Air For My] Dounut Dreams

荒涼感。この短いイントロを聴くたび、とても心細い気持ちなってしまわないだろうか。天空高く舞い上がる健一の澄み切ったファルセット。そして、複雑なコーラスに絡む不協和音的なSEがカオスティックな残り香となり、名曲は静かに幕を閉じる。まるでこのアルバムが描き出してきた世界を一掃するかのような悠久の響き。完璧である。


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LAUGH+ROUGH

LAUGH+ROUGH2nd Album / 1992.11.16 / PSCR-1063

衝撃のデビューを飾ったアーティストにとって、2作目というのは鬼門である。しかし、さすが天性の無邪気さとでも言おうか。そんなジンクスなど全く意に介さず、彼らはまたもや完璧なアルバムを作り上げてしまった。この作品に収められた歌と音楽がいまに伝えるものは、時代の空気感などという大げさなものではなく、アーティスティックな野心と天才の閃き、そして奔放な瑞々しさでしかない。だからこそ、聴く度に異なる表情を見せる永遠のマスターピースと成り得たのだ。'97年に再発(PSCR-5295)され、能地祐子による各曲解説が追加された。限定アナログ盤もあり(PSJR-9105)

01. LAUGH SO ROUGH

アルバムの始まりを告げる最高のイントロダクション。いっせいに鳴り渡る楽器の音とコーラス。細部まで緻密に作り込まれたサウンドと、まるで言葉に息吹を与えるかのように躍動するビート。その類稀なるアレンジ能力に改めて脱帽である。

02. YOUNGER THAN YESTERDAY

絶品。一点の曇りもない、どこまでも透明で美しい麗しの名バラードである。ラギース時代から演奏されてきた曲だが、そのボーカルの説得力の差は歴然。こぼれ落ちる切々とした情感。僕がこのファルセットに心震えることがなくなるときは、L⇔Rを聴かなくなるときだ。しっかりとツボをおさえた木下のベースラインにも注目。

03. BABY BACK

黒沢健一の歌いっぷりは一聴豊かで優しさに満ち溢れているが、痛々しいほどの哀しさや寂しさをそこに感じとらずにはいられない。この曲が照射するすさまじいまでの喪失感の前に、成す術なくただ呆然と立ちすくんでしまう。信じがたいほどの名曲。

04. PUMPING '92

曲名から容易に想像できる通り、'60年代ブリティッシュ・ビートの代表格Dave Clark Fiveのインストナンバー“Pumping”を、L⇔R流に解釈。衝動のまま動き回るという行動原理、やたらとやかましいドラム等、愛情たっぷりのオマージュに仕上がっている。こういったリラックスしたインスト・ナンバーは、今後彼らのお得意な手法に。

05. RIGHTS AND DUES

即時的に意味を持つ日本語からいったん離れてみると、黒沢健一が紡ぐ秀逸なメロディがいっそう豊かな響きを持つことに驚かされる。その心とろける美しい旋律を、彼はときめきに満ちたスウィートで艶やかなボーカルで聴かせてくれる。シンフォニックなアレンジも素晴らしい。決して色褪せることのない、彼らの代表的バラードのひとつ。

06. (too many flowers and mirrors) IN MY ROOM

嶺川貴子の声が言葉とともに、サイケ・ポップな空気の中を儚げに渡っていく。決して脆弱ではないが、どこか仄暗く退廃的なサウンド。アルバムの“ヘソ”に置かれたこの曲を境に、この名盤はラストまで一気呵成に流転していく。

07. WHAT “P” SEZ?

前曲の静謐さを突き抜くかのように、The Troggsの“Wild Thing”風のギターがビューンとうねり、バスドラムが激しく4拍を打ちつけると、ガレージバンド風の“押し”のメロディが駆け抜ける。一転して、「壁に映る影の幻に」と“引き”のサビ。この緩急に、メロディメイカー黒沢健一の才気を感じずにはいられない。ロック⇔ポップ。絶妙なニュートラル感覚がこの曲の最大の武器である。

08. I CAN'T STAND IT

Dave Clark Fiveのカバー。盛りのついた速さで勢い重視だったオリジナルよりも若干テンポを落とし、L⇔R流に洗練されたスタイリッシュなアレンジに。それでいて原曲のグルーヴ感を失わないところはさすがである。それにしても、彼らは本当にDC5が好きで好きで仕方ないのであろう。

09. PASSIN' THROUGH pt.1

ここからアルバムは大きな山場を迎え、エンディングに向けて見事に収斂されていく。この曲における黒沢健一のファルセットの素晴らしさは、筆舌に尽くし難い。シングル収録バージョンと異なり、エンディングのリプライズと子供の声等のSEがカットされている。

10. ONE IS MAGIC (and the other is logic)

瑞々しいタッチで紡がれていくフレーズと音空間。浮遊感とカラフルな光が屈折するサイケデリックな間奏を挟み、エンディングで繰り返されるメロディがとてつもなくロック的な高揚感を生む。豪放で火の出るような演奏と計算された構築美には、古き良きロックンロールへの独自解釈がしっかりと底流している。とんでもなく奇天烈でありながら最終形として劇的な美と化すこの曲は、L⇔R流、万華鏡ポップの最高傑作。

11. PASSIN' THROUGH pt.2

“ONE IS MAGIC”を挟み、[pt.1]と呼応する。荘厳なオーケストラアレンジが施され、1コーラスのみで終了。静かな情感を湛えたまま、次曲へとつながっていく。

12. LAUGH SO ROUGH (reprise)

このわずか50秒弱のリプライズによってすべての曲は有機的に結びつき、アルバムに大きなうねりとストーリー性を作り出す。言うまでもなく、無限の想像力をここまで見事に整理する卓越したセンスは「偉才」ゆえ。

13. (I WANNA) BE WITH YOU

つまり、The Beatles「Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」でいうところの“A Day In The Life”。The Mamas & The Papas「Monday Monday」風の華麗なコーラスによりいったん降りた幕が再び開く。流行のスタイルとは無縁のプリミティブなサウンドが鳴り響き、リスナーを包み込んでいく。郷愁のメロディーが切ない余韻を残す最高のアンコールである。本作、シングル、ベスト盤「Singles&More」と、各々バージョン違いが存在するので要注意。


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LOST RARITIES

LOST RARITIES3rd Album / 1993.6.25 / PSCR-5021

限定発売だった「L」収録曲に、プロモ盤「R」からの楽曲と最新シングルを加えて発売された企画アルバム。曲間にDJナビゲートやジングルを挟むことで、まるでノンストップラジオを聴いているかのような構成を作り出した。この手法はすでに山下達郎「COME ALONG」や、角松敏生「SUMMER TIME ROMANCE」等で実践されており、決して珍しいというわけではないが、複雑でデリケートな楽曲が粒揃いのこの作品はまるで宝箱のフタを開けたようなきらめきを放っている。ここでしか聴けない既発曲のバージョン違いが収録されているのも、ファンなら見逃せない。残念ながら、CD帯の『POPN ROLL』というユニークなジャンル表記は、この作品で見納めとなった。

01. RADIO L⇔R

フォー・フレッシュマンばりの美しいハーモニーに彩られた小品。一瞬のうちに彼らの音世界が眼前に立ち現れる。まさにジングル職人L⇔Rの面目躍如。

02. TUMBLING DOWN

アルバムと同時発売されたシングル。リズミカルなイントロを聴いた瞬間、名曲の予感に早くも胸が高鳴る。どこに飛んで行くかわからないようなポップ感が魅力。Aメロ直前の4拍はソフトロックの雄The Association“Windy”から、Dメロ「AH 待ちつづけた想い~」以降のパートに飛び出す決めフレーズは、英国ポップグループGrapefruitの名曲“Elevator”からの痛快な引用。

03. BYE BYE POPSICLE

04. LOVE IS REAL?

05. PACKAGE...I missed my natural

06. A GO GO

07. NORTHTOWN CHRISTMAS

以上、03~07は「L」収録と同バージョン。

08. RAINDROP TRACES

シングル「TUMBLING DOWN」のカップリングとして収録された人気曲である。微妙な陰影に富む美しい旋律の間を漂う、甘美な時空間。瑞々しく立体的に映えるきめ細やかなコーラスワークに、彼らの卓抜な才能が鮮やかに浮かび上がってくる。

09. I LOVE TO JAM

プロモ盤「R」に収録されていたレア・トラック。Manfred Mannの“5-4-3-2-1”を思わせる歌い出しから、夢心地の1分30秒。「R」音源はすべてモノラル・ミックスであるが、ここで聴かれるテイクは深いリバーブをかけて擬似ステレオっぽい仕上がりを狙ったもの。曲のアウトロにギターフレーズが追加されている。

10. BYE BYE POPSICLE:CRUSIN'MIX

11. NORTHTOWN CHRISTMAS:MONO MIX

以上10~11は「L」収録の名曲をモノラルMIXしたもので、ここでしか聴けない音源。10のドラムは「L」では左、「Lefty in the Right」では右チャンネルに定位していたが、ようやく中央に収まった。


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LAND OF RICHES

LAND OF RICHES4th Album / 1993.12.20 / PSCR-5075・5076

前作「LAUGH+ROUGH」がブリティッシュ・ロックに対してのオマージュだとすれば、ここで全編通して貫かれているのは、アメリカン・ポップスへの憧憬である。そのドリーミーな感覚を、彼らなりの解釈で見事に昇華・発展させてみせた手腕に、最高傑作との呼び声も高い。時代の変化や特質に決して左右されない魔法の調べが刻まれた珠玉の作品である。1枚に収録できるボリュームながら、あえて2枚組として発売。A面とB面をひっくり返しながら聴くレコードのように、このアルバムも聴いてほしかったとのこと。そのアナクロな感覚(思い付き?)も遊び心に溢れていて、実に彼ららしい。'97年には、曲順はそのままで1枚ものとして再発(PSCR-5297)。海野祥年、朝妻一郎、萩原健太、各氏によるライナーノーツが封入された。限定アナログ盤あり(PSJR-9106)

■SIDE-A

01. LAND OF RICHES-1

脳天直撃のタイトルトラック。キーボードの音が飛び出してきた瞬間、“Time Heals”の頃のTodd Rundgrenを思い浮かべてしまったが、ずっしりと重い音像、展開のスリリングさでは、間違いなくL⇔Rに分がある。右チャンネルでは終始8ビートのマラカス(?)が鳴り、キーボードの定位置は左チャンネル。しかし、キーボード・ソロでは突如として中央に定位、その存在感を否応なく主張する。手に汗握る演奏の中、あえて熱を抑えているかのようにすら感じる健一のクールなボーカル。その挑戦的な眼差しから生み出される静かな緊張感。まさかライブで、あのようなただごとではないテンションの曲に大変貌を遂げようとは、このとき誰も思わなかったに違いない。

02. NOW THAT SUMMER IS HERE

L⇔R屈指の名曲。イントロのドラムに続いて「話上手な振りは嫌いさ」と健一があの声で歌い出した瞬間、すべての束縛から解かれたような開放感と多幸感に涙腺が決壊する。そしてここから聴き手は、一種の屈折した洋楽体験をすることになる。サビのメロディはThe Turtlesの“Elenore”、「ジェリービーンズ頬張って」というAメロ頭がBeach Boys“Wouldn't It Be Nice”、間奏では同じくBeach Boysの“Good Vibration”のベースラインを引用し、テルミン風の音色までキーボードで再現するという徹底ぶり。それらは、ありとあらゆる音楽を体内に刻印づけしてきた黒沢健一だからこそ可能なアウトプットだった。しかしなにより驚くべきは、そのアウトプットが純然たるオリジナルティーを持った“NOW THAT SUMMER IS HERE”以外の何物でもなかったことである。これだけ濃厚な洋楽エッセンスを封じ込めながらも決してお仕着せにはならない、天才のみに許された高度な離れ技。

03. AMERICAN DREAM

通常の声域とファルセットの声域を自在に往来する天賦のボーカリスト黒沢健一は、いとも簡単にこの難曲を歌い上げてしまった。The Lovin' Spoonfulに代表される、いわゆるグッドタイム・ミュージックであるとか、Van Dyke ParksやRandy Newmanのバーバンク・サウンドを、'60年代後半にタイムスリップしたL⇔Rが実践したらきっとこんな素敵な曲。時間の息づかいが聞こえてくるようである。

04. CRUSIN' 50-90'S

アクセル踏みっ放しの疾走感。間奏のピアノ連打。乾いたギターの音色。“FUN,FUN,FUN”風のコーラスと、“DANCE DANCE DANCE”を彷彿とさせるサビ途中での強引な転調。この威勢の良いホット・ロッド&サーフナンバーこそが、愛するBeach Boysに対するL⇔Rからの返答である。追い付き追い越せとばかりにそのスタイルの“模倣”に忙しい凡百のバンドと違い、彼らの音楽にはスタイルを超えた本物の躍動がたしかにあった。その何よりの証左が“NOW THAT SUMMER IS HERE”であり、この曲である。

05. CIRCLING TIMES SQUARE

圧倒的な「空白」の力とでも言おうか。この曲では、イントロ、間奏、エンディングで、ピタッと演奏が鳴り止むブレイクが幾度となく繰り返される。その「空白」が生み出す厚みや拡がりが、不思議な浮遊感を伴って舞う嶺川貴子の歌声と絶妙に溶け合う。

06. RED&BLUE

イントロはDAVE CLARK FIVE“Crying Over You”へのオマージュ。切々ともの悲しげなメロディの上に、柔らかく言葉が紡がれていく。その醸し出す微妙な表情の変化を発見するたび、ボーカリスト黒沢健一の豊かな表現力に驚きを禁じ得ない。類い稀れな天性の声質は比肩するものなき唯一無二のものである。水彩画のように淡い感傷を、多感なまでのポップな感性で静かに掘り下げた名曲。

■SIDE-B

01. THINGS CHANGE~

Brian Peckによる「語り」ナンバー。Todd Rundgrenの歴史的名盤「Something/Anything?」にも、“INTRO”というタイトルのセリフ曲が収録されている。しかも、アルバム7曲目。これは単なる偶然だろうか?

02. EQUINOX

バラードを書かせたら世界で5本の指に入るといわれる、あのBruce JohnstonやBarry Mannが在籍したレーベル。それがイクイノックス。健一の歌声の背後に絶えず暗流として流れる深く屈折した感情の動きに、ただただ聞き惚れてしまう。しかもこれが、録り直し無しのワンテイクというから驚愕。まるでメロディを慈しむかのように丁寧に歌い上げる健一と、Barry Mannの姿が重なって仕方がない。イクイノックスレーベルに対する深い愛情と尊敬の念が窺える名曲だ。

03. TELEPHONE CRAZE

弾けるようなビート感が印象的で、大衆性と芸術性のバランスも見事な人気ナンバー。嶺川の豊かなコーラスがサビに彩りを添えている。韻を踏む言葉とメロディの関係には、言葉遊びのような無邪気さと同時にインテリジェンスすら感じさせる。

04. CAN'T SIT DOWN

エディ・サンセット&ブレイザーズのテーマ。Spiral Lifeとの共演も話題となった、陽気なサーフ系インストナンバーである。秀樹→石田小吉→車谷浩司とギターソロを分け合う。この手の音楽への傾倒ぶりが窺える密度の濃い演奏になっている。

05. U-EN-CHI

黒沢秀樹が作曲ならびにリード・ボーカルをとる名バラード。秀樹のボーカルは線が細くピッチも不安定だが、彼の声だからこそ生まれる情感があることも確か。幼い頃に誰もが覚えた、遊園地に対するあの胸躍るワクワクとした気持ち。サウンド・コラージュ的な感覚で描かれたメリーゴーラウンド風の間奏が、その空気感を生き生きと蘇らせる。高野寛が、ES-335ギターで参加。

06. LAND OF RICHES-2

ここで再び描かれる「アメリカ」は、L⇔Rの多様な表情を惜しみなく映し出す。透徹した光のような極めて独自のトーンに彩られた音が、整然と重なり合っていく。


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LAND OF RICHES Reverse

LAND OF RICHES ReverseMini Album / 1994.04.25 / PSCR-5041

4thアルバム「LAND OF RICHES」から4曲を抜粋し、各バージョン違いを収録した企画盤。帯には「L⇔Rファンは二度楽しむ!」とコピーが躍る。各曲ごとの詳細については、びっくりコンテンツ内「バージョン違い検証」を参照のこと。

01. TELEPHONE CRAZE

イントロ左チャンネルのギターなし。Aメロ<~片手だけの恋は>部分のブラスなし。Bメロ<テレフォン・コール待っているときだけ~>部分のコーラスなし。ヴォーカルがややオフ気味。プロモ盤「LAND OF RICHES EDIT SAMPLER」に収録された音源と同じもの。

02. EQUINOX

ストリングスを排し、ピアノのみのアレンジ。1994年のEQUINOXツアーで披露されたバージョンはこちらに近いか。

03. RED&BLUE

イントロとBメロに、ピアノフレーズ追加(左チャンネル)

04. LAND OF RICHES-2

イントロのドラム2拍が左右に分離。中央のギターはオフ気味。キーボードは隠し味程度に抑えられている。定位はドラムが右、キーボードが左。


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LACK OF REASON

LACK OF REASON5th Album / 1994.10.21 / PCCA-00641

ポニーキャニオン移籍第1弾アルバム。楽曲は一層バラエティに富みながら、アルバム全体に統一性を感じさせるのは、絶妙に散りばめられた'60年代オールディーズのフィーリングによるものか。各メンバーのソングライターとしての躍進とともに、黒沢健一もマスターピースと呼べる名曲を数多く生み出し、ポップスという枠組みの中で脈打つ、彼らの多様な音楽性を窺い知ることのできる名盤となった。初回限定2枚組。通常盤は曲順を変更して1枚組として発売(レビューは2枚組の曲順に従った)。限定アナログ盤あり(PCJA-00007)

■FACE-A

01. SOCIETY'S LOVE

たたみかけるようなビートとともに疾走する、真摯な表現衝動に満ちたボーカルが素晴らしい。生き生きと楽器を奏でる彼らの表情が見えるシャープな音で、アルバムは軽快に幕を開ける。

02. CATCH THE TUBE

跳ねるようなバック・ビートの響きを引きずるように、硬質な音が奔放に連なっていく。そのなかでも決して饒舌さを失わない黒沢健一の天性の節回しは、やはり孤高のシンガーであることを証明している。エンディングの「パン!」という一音がそのまま次曲のイントロとなる構成も見事。

03. IT'S ONLY A LOVE SONG

各パートの成分がお互いに干渉し合うことなく奥行きを作り出し、そのどこかノスタルジックな空気に心が暖まる。風化することのないポップ・センスを継承する彼らならではの名曲だ。エンディングにさりげなく聞こえるパチノイズがいい。

04. EASY ANSWERS

木下裕晴の単独名義による、パンチの効いた爽快な曲である。従来の彼らの音楽とはまた違った視角で展開されるメロディラインが新鮮。

05. HELLO,IT'S ME (ALBUM MIX)

スマッシュヒットを記録した彼らの代表曲のひとつ。黒沢健一の内側から湧き上がってくる仄暗く美しいメロディが、とても自然でありながら、味わい深いインパクトを残す。まるで川の流れのように荘厳な調べ。薄っぺらなトレンドなどに飲み込まれることなく、時代を超えて輝き続ける不朽のスタンダード・ナンバーである。

■FACE-B

01. REMEMBER

これぞL⇔R!と膝を打ちたくなる会心の作。ポップスのダイナミズムと、解き放たれた感性の調和が生んだ名曲中の名曲である。ドラマティックであると同時に、淡く繊細な鼓動が楽曲に踊っている。透明な黒沢健一の声で歌われることで封じ込められた瑞々しさは「永遠」。


02. STAY AWHILE

ノスタルジックな雰囲気を持つ3連バラード。深く静かに染み渡っていくファルセットを中心に、叙情的な音の粒子がゆったりと流れていく。

03. PARANOIAC STAR

奔放で陽性なサウンド、音の壁を突き抜けていくようなビート、大きなうねりを醸し出す律動。ひとつひとつの音はワイルドなのに、それらが揃うと不思議な品が生まれる。これ、いかにも木下色なり。

04. THEME OF B.L.T

L⇔Rお得意の軽妙洒脱なインストナンバー。興味のおもむくままに音を絞り出したような、おもちゃ箱的な楽しさがある。しかし、それぞれの音の奥行き・拡がりと、バンドとしての更なる緊密度に注目してほしい。こういったインスト曲にありがちな、お遊びセッション風景の切り貼りに終始することなく、はっきりL⇔Rという記名性を主張している点がすごい。

05. SEVENTEEN

なんと瑞々しく、躍動感にあふれる名曲だろう。ポップスの定型と斬新さを自然に混ぜ合わせつつ、L⇔Rというバンドの色を見事楽曲に反映させている。尾崎豊は「何の為に生きてるのかわからなくなるよ」と17歳の戸惑いを歌い、浜田省吾は「あたいはイカれたあばずれセブンティーン」と17歳の蹉跌を歌った。そのどれもが重く苦々しい痛みを湛えていたのに対し、黒沢健一は「不安なままポケット探り 苦いタバコくわえてた」という17歳の焦燥感を、自嘲的になることなく、あくまで軽やかなワンセンテンスで表現してしまった。「いつのまにか大人になって ソファーの奥沈んでいた」。大人になることへのやるせなさ、年を取ることに誰もが覚える抗いようのない欠落感である。

06. KEEP THE CIRCLE TURNING

悲痛な表情、優しさ等を自在に表現するファルセットの美しさに、ボーカリストとしてのポテンシャルの高さを見ることができる。あくまで“歌”を中心に据えながらも音数を絞り込んだシンプルかつ饒舌なアレンジは、聴き手を引き込む魅力に溢れている。ラスト、はかなげに変化するコード進行も美しい。

※通常盤曲順
01. SOCIETY'S LOVE
02. REMEMBER
03. STAY AWHILE
04. CATCH THE TUBE
05. IT'S ONLY A LOVE SONG
06. EASY ANSWERS
07. THEME OF B.L.T
08. SEVENTEEN
09. PARANOIAC STAR
10. KEEP THE CIRCLE TURNING
11. HELLO,IT'S ME (ALBUM MIX)


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Let me Roll it!

Let me Roll it!6th Album / 1995.12.16 / PCCA-00845

ポップスのフィーリングを失うことなく、メンバー3人が一体化して繰り出す力強い音が印象的な作品。“KNOCKIN' ON YOUR DOOR”、“BYE”、“GAME”等、ヒット・シングルを多数収録。そのコマーシャリズムの陰で、彼らの閃きに満ちた複雑な陰影を持った才気がやや後退した感は否めない。しかし、非常に優れたポップアルバムではあることに議論の余地はなく、彼らの高い音楽的資質をストレートに実感できる名盤である。初回三方背BOX仕様。限定アナログ盤あり(PCJA-00011)

01. MAYBE BABY

バンドの持つダイナミズムと、その骨格の美しさを繊細に浮き立たせるオープニング・ナンバー。太く歯切れのいい音が、本能と経験によって磨き上げられた彼らの揺るぎ無い自信を感じさせる。アイドルユニット、Melodyの“運命'95”は、アイドル・ファンの間でもいまだ人気の高い曲だが、果たしてこの“MAYBE BABY”の存在を知っているファンはどれだけいるのだろう・・・。

02. GAME

ポップスはときに苦悩や憂鬱さえも映し出してしまうものである。表層は優れたポップ・チューンに違いないのだが、「初めて乗ってみたシステム わけもなく続く痛み」、「それでも知っていたかった回りだしたルーレットに 僕は賭けるよ」というように、歌詞の内容にはシリアスな一面もある。大衆からの支持というポップスの意味性を受け入れなくてはならない黒沢健一と、そのポップスを裏切ることができずもがく黒沢健一。この曲は、それぞれの姿を鏡に映した相聞歌ではないだろうか。内に向けたエネルギーの放出は、この時点ですでに始まっていたのかもしれない。

03. BYE

良い意味での“L⇔Rらしさ”を明快に押し出し、しっかり貫き通した楽曲である。ビートルズの“Hello,Good-bye”を例として挙げるまでもなく、この曲には彼らの音楽の中に強く表出する、ルーツ・ミュージックとして醸成された美意識を見ることができる。起伏に富んだ表情を紡ぐ各パートの演奏も素晴らしい。

04. DAYS

ふくよかな音がメロウな空間を作り出す。陽だまりでまどろみながら聴きたいイノセントな名曲。アナログ盤「Singles&More2」には、[Alternate Mix]を収録。

05. 僕は電話をかけない

黒沢秀樹作詞・作曲のこの曲のユルさは、続く“TALK SHOW”のユルさとは異質で興味深い。健一と見事な対照の妙を見せてくれる。

06. TALK SHOW

混沌とする活気。その混沌の中から整合が立ち上がってくる瞬間のカタルシスは、予定調和の音楽にはないものだ。ボブ・ディラン調の曲が作りたいと思えば、これだけのものが作れてしまう健一の才能が恐ろしい。それまでの技量を集約し、さらにもう一歩その水準を高めることにチャレンジした意欲的な曲といえるだろう。比較的口当たりの良い曲が並ぶ今作の中で、仏頂面のこの曲の存在はギラリと鈍く光る。音楽は実に雄弁だ。

07. HANGIN' AROUND

跳ねたリズムが刻まれていく、木下のペンによる名曲。軽薄ではない、リフレッシュされた軽さが気持ち良い。あえてサビに歌メロを入れず、とぼけたように演奏のみで終わる1コーラス目がニクい。

08. KNOCKIN' ON YOUR DOOR

彼らは変わらず“良い曲”を書き続けてきただけ。声高に叫ばれた“タイアップ効果”うんぬんと彼らの音楽の質は、全く別次元の話である。哀愁のメロディ感覚、理路整然と配置されたセンス抜群の効果音など、文句なしの名曲。つまり、この曲がミリオン・ヒットを記録したという純然たる事実は、ポップスの有効性がまだ信じられていた時代がかつてあったという、たしかな証明である。

09. OVER & OVER

イントロはゴダイゴの名曲「ミラージュのテーマ」からの引用か。「いつもすれ違う夜を眺めて」以降のフレーズにふと顔を覗かせるウェットな哀感。そして、生彩を放つメンバー各々のプレイも出色である。木下裕晴がL⇔Rに残した最高傑作のひとつと言っていいだろう。

10. DAY BY DAY

アクのない洗練されたメロディ・ラインが、独特の品の良さを醸し出す名バラード。叙情的に歌われながら、その視線の在りようはどこまでもクールだ。

11. LIME LIGHT

多様な音楽要素を内包するL⇔R流サイケポップの最高傑作。テープ逆回転やエコー選択の妙、Marshall Crenshawの名曲「Whenever You're On My Mind」からの大胆な引用などに、黒沢健一の異能ぶりを窺い知ることができる。2コーラス終了後のDメロ、「霧に溶けたカーニバル~」パートの素晴らしさを表現する言葉はない。まるで語尾を軟着陸させるようなソフトな歌い回しが絶品。


REVIEW::L⇔R

Doubt

doubt7th Album / 1997.4.16 / PCCA-01097

現時点でのスタジオ最新作。メンバー各々の嗜好が楽曲に色濃く反映され、個性の違いがはっきりと顕在化した。アルバム全体の統一感という視点から見れば、この作品は決してまとまっていない。しかし、それぞれの曲の完成度は非常に高く、前作で後退したかに思えた才気がここにきて再び爆発。そして、もはや神掛かりとしか言いようのない黒沢健一のポップ・センスが凄すぎる。この名盤を栄光の歴史の片隅に置き忘れてしまってはいけない。初回限定デジパック仕様。限定アナログ盤あり(PCJA-00021)

01. STRANDED

“メジャーな存在であること”において、彼らは自分達の内なる部分に対して美意識の変革を求められていた。木下によるこの過激な疾走感に貫かれたロック・ナンバーをあえてアルバム冒頭に置くことで、彼らは滑らかに圭角のとれた小石、すなわち“清潔なL⇔R像”を思うままに砕いてみせた。

02. NICE TO MEET YOU

ビートの隙間を突き抜けるメロディと、仄かに漂う哀感がL⇔R以外の何ものでもない色彩を主張する。アルバムの中でもひときわ印象的なイントロは、TRAFFICの“Paper Son”がヒントか。

03. アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック

天才の閃きは初期衝動として、L⇔R史上最も異形で攻撃的なこの名曲を生み出した。狂ったような律動と尖鋭的なサウンドのなかを、痛みすら感じさせずに駆け抜けるボーカル。独り歩きしたL⇔Rという記号に対して、黒沢健一本人が叩きつけた強烈なアンチテーゼ。それは同時に、L⇔Rにとって未踏の高みとなった。

04. First step

一聴、軽やかで奔放な空気が漂うメロディだが、そこに味付けされた哀愁味が泣かせる。ある一点に突き進むしかない実直さと朴訥さを巧みに消化した名曲である。

05. COUCH

天才の空虚な眼差しは死んではいない。抑制のきいたボーカル。ふくらみを持った成熟のサウンド。さらに深く、さらに大胆に、さらに力強く表現の核に肉薄しようとする黒沢健一の才気に総毛立つ。「どうしたらいいでしょうね」のBメロ部分は、The Lovin' Spoonful「She is Still a Mystery」からの引用。BEACH BOYS風コーラスも、ここではどこか皮肉めいて聞こえる。

06. 雲

ロック衝動の分析という作業を経て、新たな語法を会得した木下が生み出した名曲である。「答えならいいさ」と繰り返すフレーズからは、人と人との間に横たわる距離を手繰り寄せようとする意志の力が感じられる。

07. FLYING

黒沢秀樹作の名曲。言葉を慈しみながらも突き放すように歌う彼のボーカルには、染み入るようなディープな味わいがある。デリケートな音を響かせるギターも印象的だ。限定アナログ盤「Singles & More2」には、[Promo Mix]を収録。

08. 僕は君から離れてくだけ

曲全編を覆うキーボードの音が印象的。悲痛な感情をさらけ出すボーカルが「僕は君から離れてくだけ」と歌い進んでいくほどに、その明滅する心が透けていくかのようである。

09. ブルーを撃ち抜いて

L⇔Rバラード最高傑作のひとつ。そして黒沢健一、一世一代の名唱である。まるで、研ぎ澄まされ張り詰めた空気の中で精妙な色のグラデーションに彩られた光が反射しあっているかのよう。その崇高さの前で聴き手はただ言葉を失する。「Doubt」の世界に黒沢健一は確かに“いた”。

10. 直線サイクリング

緊張感と、しなやかさ。その両者が拮抗しつつ生み出された音像。この、じわっと背中に抜けるようなクールなグルーヴ感の中で緊張から解放へ巧みに移行することができるバンドはやはり貴重。

11. そんな気分じゃない

ゆったりとしたリズムが生み出すのは、まるで自らの呼吸と呼応するかのようなユニークなタイム感。どろっと溢れ出る重苦しいトーンの音の塊に、はっきりと作家の顔が見える。シングル「STAND」のカップリングには、豪華ミュージシャンが参加した、[JAM TASTE]バージョンを収録。

12. STAND

右手には音楽への無垢な愛情を。左手には人なつっこい温かさを。バンドとしてのクリエイティヴィティを存分に発揮し、ポップスのあるべき類型を示した彼らの置き土産がこの曲である。そして、彼らは静かにシーンから退場した。


REVIEW::L⇔R